病棟勤務と訪問看護の違い:どちらが向くかの見立て方
「どちらが楽か」では答えが出ません。何を減らし、何を守りたいかから考える見立て方を、調査の数字と、私たちの読み方で整理します

夜勤明けの帰り道、ふと「このまま病棟にいていいのか。訪問看護のほうが合うのだろうか」と考える。同僚には、まだ言いにくい。求人を見ても、違いが「夜勤なし」の一言に見えてしまって、決め手がつかめない。
(これは、読者の状況を想定した架空の場面です。実在の誰かの体験ではありません。)
病棟と訪問看護は、「どちらが楽か」で比べても答えが出ません。夜勤の負担が減っても、別の負担が増えることがあるからです。この記事は、細かな条件の確認ではなく、どちらが自分に向くかを見立てる考え方に絞ります。
- オンコール・移動・教育・給与の数字と、事業所に聞くことは、訪問看護へ移る前に知っておきたい現実に。
- 夜勤をやめたときの年収の読み方は、夜勤なしで働く選択肢と、年収の変わり方の読み方に。
- 病棟のまま夜勤を調整する道は、夜勤は「続ける」か「やめる」かの二択ではありませんに。
ここで扱うのは、全国の調査の数字と、それを踏まえた私たちの読み方です。特定の病院や事業所の良し悪しは判断しませんし、おすすめもしません。診断や法律上の判断も、この記事ではできません。体調がつらいときは、考える前に、主治医や産業医に話してください。
先に押さえる3つのこと
- 2024年末に就業していた看護師1,363,142人のうち、病院で働く人は65.7%、訪問看護ステーションで働く人は6.7%(91,022人)です[S62]。人数でみると、訪問看護ステーションは病院の約10分の1です。
- 回答者の勤務形態で「日勤のみ」は、病院27.6%、訪問看護ステーション66.2%でした。一方、調査の前月(2024年12月)にオンコール待機をした人は、病院6.5%、訪問看護ステーション63.1%でした[S56]。夜の負担は、なくなるというより、形が変わることがあります。
- 病院・診療所に勤め、訪問看護ステーションへの転職を希望する人(n=798)が、転職に必要な支援として挙げたのは、条件のマッチング59.0%、キャリアプランの相談55.9%に加え、「その領域で働く看護職から話を聞けること」39.7%(調査全体では26.7%)、「仕事の体験ができること」29.9%(同20.0%)でした[S49]。
違いを、5つの観点で並べる
数字のない行は、一般的な傾向としての整理です。事業所や病院ごとに実態は違うため、面談で確かめてください。
| 観点 | 病棟勤務 | 訪問看護 | 詳しくは |
|---|---|---|---|
| 夜 | 夜勤がある病院が多い。病院勤務者のうち日勤のみは27.6%[S56] | 日勤のみは66.2%。ただしオンコール待機をした人が63.1%[S56] | 訪問看護へ移る前に知っておきたい現実 |
| 働く場所 | 病院の中 | 利用者の自宅へ移動 | 同上 |
| 周りの人 | 同僚や医師が近くにいる | 訪問先では、1人で動く時間が長い | 同上 |
| 求められる判断 | 近い距離で確認しやすい | 現場での判断が増える | 同上 |
| 勤務時間 | シフト制 | 日勤中心が多い | 求人票で確認したい条件 |
夜勤とオンコールは、負担の形が違います。夜勤は、決まった時間に職場で働くので予定は立てやすい一方、生活リズムへの影響があります。オンコールは、勤務時間外に待機し、呼び出しがあれば対応するもので、呼び出しがない日も、外出などに制約が出ることがあります。回数や手当、翌日の扱いは、事業所で違います。
ここからは、私たちの読み方
ここからは、上の数字を踏まえた私たちの読み方です。解釈であって、出典のある事実ではありません。あなたの状況によっては、当てはまらないこともあります。
夜勤明けの、頭が回らない時期に、大きな選択を考えている。そのことに後ろめたさを感じる人もいると思います。考え始めるきっかけが疲れでも、考えること自体は不自然ではありません。そのうえで、疲れの中で決めるときの注意点も、後ろに書きます。
読み方1 数字が意味すること
訪問看護は少数派で、周りに聞ける人が少ない道だと読みます。 病院の約10分の1の人数[S62]ということは、同期や先輩に「訪問に移った人」がいる確率も、一般には低いはずです。移ろうとする人が「話を聞きたい」「体験したい」と答える割合が高い[S49]のも、同じ事情を映していると私たちは読みます。話を聞きたいと思うのは、慎重すぎるからではなく、聞ける相手が身近に少ないからだと考えます。
求人が多いことは、「あなたに合う職場が多い」ことを意味しません。 都道府県ナースセンターの求人倍率(2024年度)は、領域別で訪問看護ステーションが4.54倍と最大でした[S49]。これは、人を探している事業所が多いという採用側の事情を示す数字です。条件を聞く余裕がある、とも読めますし、「早く決めて」と急かされる理由にもなりえます。私たちは、前者の読み方を勧めます。
読み方2 トレードオフ
どれか1つを軽くすると、別の1つが重くなることがあります。動く軸を並べます。
- 夜勤が減る代わりに、夜の待機が残ることがあります。 日勤のみの割合は上がり(27.6%から66.2%)、オンコール待機をした人の割合も大きく上がります(6.5%から63.1%)[S56]。
- 同僚の近さが減る代わりに、自分の持ち場と、利用者との距離が増える、というのが一般的な見方です。 これは数字で確かめていない部分で、事業所によって大きく違います。
- 何が学べるかは、何を学びたいかで変わります。 急性期の医療処置を積みたいのか、生活の場での看護を知りたいのか。優劣ではなく、向きの違いだと考えます。
私たちの見立ての核は、「どちらが良いか」ではなく、「どの重さなら引き受けられるか」を先に決めることです。
読み方3 条件別の見立て(もしAなら、Bを確かめる)
- いちばんつらいのが、夜勤明けの体の回復なら。 訪問看護の日勤中心の事業所は、検討する価値があります。ただし、オンコールの回数と、翌日の休みを先に確かめます。
- つらいのが「夜勤そのもの」ではなく、回数や間隔、休憩なら。 病棟のままで、調整できる可能性があります。病院の中にも日勤のみの人はいますS56]。調整できるかを確かめてから、移るかを考えても遅くないと考えます。夜勤の基準の読み方は、[「夜勤は月8回」は多いの?にあります。
- 利用者や家族と、じっくり関わりたいのが動機なら。 訪問看護が合う可能性があります。ただし、1日の訪問件数と、1件にかけられる時間を確かめます。
- 一人で判断する場面が、いちばん不安なら。 迷ったときに電話で相談できる相手と、単独訪問に移る基準を確かめます。不安が大きければ、病棟で経験を積む期間を決めて、先に移る時期を決める手もあります。
- まだ決め手がなく、迷っているだけなら。 決める前に、話を聞く・体験することから始めます。都道府県ナースセンターでは、訪問看護や介護施設など新しい領域に挑戦する人向けに、入門研修や施設見学を行っています[S51]。内容・日程・費用は都道府県で違うため、各ナースセンターに問い合わせてください。
読み方4 決める時期の注意
疲れが強いときの判断は、いま一番つらいものに引っ張られやすい、と私たちは考えます。夜勤が原因のつらさなら、「夜勤がない」と書かれた求人に目が向きます。そのため、決める前に、直近1か月の夜勤の回数、勤務の間隔、休憩・仮眠の実際をメモしておくと、つらさの中心が見えます。メモの取り方は、「夜勤は月8回」は多いの?にあります。つらさの中心が分かると、移る先に求める条件が、はっきりします。
見立ての根拠と、変わる条件
根拠は、就業場所別の看護師数[S62]、日本看護協会の賃金調査[S56]、国の検討会資料にある転職支援のニーズとナースセンターの求人倍率[S49]です。賃金調査は会員の調査で、全国の代表値ではありません。「周りに聞ける人が少ない」という点は、人数の比から私たちが読み取った推測で、あなたの職場や地域の実態は確かめていません。次のときは、見立てが変わります。
- あなたの職場や地域に、訪問看護へ移った人が身近にいるとき(その人の話を優先してください)。
- 気になる事業所の条件が、面談で具体的に分かったとき。
- 就業場所や転職支援のニーズについて、新しい調査が出たとき。
今週やること
「いちばん減らしたいもの」を1つ決めてください(例:夜勤の回数、夜の待機、体の回復、人間関係)。次に、上の条件別の見立てから、確かめる項目を3つ選びます。最後に、話を聞く・体験する入口を1つ調べます。
事業所の情報を調べる
訪問看護を含む介護サービスの事業所の情報は、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」で公表されています[S5]。求人票の記載と、照らして確認してください。
自分の条件で、整理する
病棟か訪問かを決める前に、自分の条件を、3つに分けて書き出してみます。
- 絶対:満たせないと困る条件(例:夜勤は月4回まで、オンコールなし)
- 希望:満たせると嬉しい条件(例:通勤は片道30分まで)
- 不問:気にしない条件
次に、候補を並べて、条件ごとに「一致」「不一致」「要確認」を見ます。求人票の条件を照合するツールを使うと、現職と求人2件を、この区分で並べられます。「要確認」になった項目は、面談で聞く質問になります。
資格と条件から、検討できる働き方を整理するには、働き方ナビが使えます。求人の検索や、順位付けはしません。
よくある疑問
訪問看護は、経験がないと働けませんか。
事業所によって違います。経験年数の条件や、研修・同行訪問の体制は、求人票や面談で確認します。確かめ方は、訪問看護へ移る前に知っておきたい現実にあります。
訪問看護にも、夜勤はありますか。
正規雇用フルタイムの回答者のうち、勤務先に看護職員の夜勤が「ある」と答えた人は、訪問看護ステーションで20.2%、病院で82.3%でした[S56]。ただし、夜勤がなくてもオンコールで夜間に備える事業所が多く、調査の前月にオンコール待機をした人は63.1%です[S56]。回数と手当を、事前に確認してください。
病棟から訪問看護に移ると、給与はどうなりますか。
事業所によって違います。夜勤手当がなくなる一方、訪問件数に応じた手当や、オンコール手当が付く場合もあります。年収比較ツールで、現職と並べて確かめてください。
次に読む
参照した公式情報
| 出典 | 対象 | 確認日 |
|---|---|---|
| 厚生労働省 令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況(PDF・令和7年7月29日) | 2024年末現在の就業看護師数の就業場所別の人数と構成割合(表2)、「介護保険施設等」の範囲(表2の注)、前回調査との増減(表1) | 2026-11-03 |
| 日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査 報告書」(2025年) | 看護職員個人調査(日本看護協会の会員を層別無作為抽出)の、正規雇用フルタイム勤務者の年収額(就業先別・表201)、就業先ごとの勤務形態(表172)、夜勤の有無と実施状況(表205・206)、夜勤手当の総額(表207)、オンコール対応の実施状況と手当(表210・211) | 2026-11-03 |
| 厚生労働省「第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」資料3(令和8年7月23日)の復職支援に関する資料(31〜32・36〜38・47枚目) | ブランク期間が長いほど再就職意向が低い傾向(国の整理)、ナースセンター令和6年度求職者の勤務時間の希望(日勤のみ40.4%・不明47.1%・こだわらない9.3%)、転職するうえで必要な支援(2025年看護職員実態調査 n=4,430)、大学リカレントスクール(修了生86名中53名が復職)、ナースセンターの復職支援研修の事例、復職支援の論点 | 2026-11-03 |
| eナースセンター「ナースセンターとは」 | 都道府県ナースセンターが手数料等の対価を受けない無料職業紹介を行うこと、ブランクが心配な方への再就業支援研修(最新の医療・看護に関する講習や技術演習)・体験研修・交流会、訪問看護・介護施設へ挑戦する方への入門研修・施設見学 | 2026-11-03 |
| 厚生労働省 介護サービス情報公表システム(公表されている介護サービスについて) | 訪問看護を含む介護サービスの事業所情報が同システムで公表されていること | 2026-11-02 |